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トップ  >  メディカルトリビューン( 2007.04)

メディカルトリビューン リレーエッセイ「続時間の風景」
三原一郎
Net4Uとともに



私の所属する山形県鶴岡地区では、医療連携(情報共有)型の電子カルテシステム「Net4U」が動いています。運用からすでに5年が経過していますが、一部の医療機関とはいえ、地域の医療現場になくてはならない連携ツールとして定着しています。例えば、診察室でこの文書を書いているのですが、「紹介状が3通来ています」、「検査データが4件上がってきました」と、ピンポンの音とともにポップアップで教えてくれています。紹介状は、病院からの往診依頼であったり、特養嘱託医から、これから患者さんを連れて行かせますのでよろしくという紹介であったりします。午後から往診へ行ってきたのですが、往診後の担当訪問看護師や主治医への報告はNet4Uカルテに所見や今後の治療方針を記載して、往診の時撮ってきた写真を貼り、紹介状機能を使ってその旨を先方に伝えます。 これで、ほぼリアルタイムに正確に情報を伝え、それをカルテの中で継続的に共有することができます。Net4Uを利用するようになってから、チームで患者を支えている、皆で医療を提供しているという、何ともいえない至福感に近い連帯感を感じるようになりました。


Net4Uは、2002年度の経済産業省の地域医療ネットワーク構築事業に参画して開発した1地域 ・ 1患者 ・ 1カルテを目指した電子カルテシステムです。当初は、地域をひとつの病院としてみなし、皆で同じ電子カルテを使おうというコンセプトでした。しかし、紙カルテを電子カルテに変えろというのは所詮無理な話であり、運用開始直後より、必要なときに必要な事項を記載し、連携のためのツールとして使おうというコンセンサスが自然発生的に生まれました。すなわち、Net4Uを患者さんの連絡ノートとみなし、患者さんに関わる医師や看護師がそこに必要な情報を記載し、お互いが伝えたい情報をやりとりするツールとして活用されています。なお、検査データは、検査センターからオンラインで自動的にカルテに取り込まれます。Net4Uには、中核病院の鶴岡市立荘内病院を含む4病院、 25診療所(全診療所の約30%)、1訪問看護ステーション、荘内地区健康管理センターおよび3つの民間検査会社が参加しています。02年1月の運用開始以来、登録患者数は一万名を突破し、そのうち約20%の患者情報が複数の医療機関で共有されています。


一方で、Net4Uのような1地域 ・ 1患者 ・ 1カルテを目指した医療連携システムは数多く開発されてきましたが、全国的にみても実運用例は少ないのが現状です。手前味噌になりますが、鶴岡ではなぜうまく行っているのか、その要因を考察することは今後のITによる地域連携を考える上で参考になると思われます。


まずは、早期から情報化を推進し、会員の間でITが日常化していた点を挙げたいと思います。当地区医師会では、1997年を情報化元年と位置づけ、積極的に情報化を進めてきました。東北では、トップを切ってホームページを開設し、次いで、医師会イントラネットの構築、在宅患者の情報共有システム、医師会検査データを医療機関からオンラインで閲覧できるシステムなど、当時先進のシステムを医師会自前で開発してきました。また、全国の医師会でもあまり例をみないペーパーレス理事会をすでに6年前から開始し、各種メーリングリストの立ち上げ、理事会や委員会の議事録の情報公開も積極的に行ってきました。しかし、順風満帆で推移してきたわけではありません。メーリングリストを立ち上げても見てもらえない、便利なシステムを開発しても利用してくれない、という壁にぶち当たった時期もありました。そんなときに、助けてくれたのが、「ひげだるま」という10名ほどの同志たちでした(「ひげだるま」は、医療系ML「ひめだるま」をモジッたもの)。メンバーが、週番性で毎日さまざまな情報をメールで流し、メールを読んでもらうことを習慣にしてもらおうという活動を熱心に繰り返しました。この運動を続けて以来、メールを通してのコミュニケーションが徐々に日常化してきたと思います。今では、医師会内でのコミュニケーションは ほとんどがメールで行うようなりました。メールを利用してリアルタイムにさまざまな情報や問題意識を共有することは、医師会という組織が同じベクトルで進んでいくのに、とても重要なことと思います。このような過程を経て、皆で育ててきたコミュニケーションの場としてのネットワーク、そこで動くNet4Uだからこそ愛着をもって多くの会員に使ってもらえたのかも知れません。


ソーシャル ・ キャピタル(社会関係資本)という言葉があります。規範 ・ 信頼 ・ 互酬性 ・ 善意 ・ 仲間意識 ・ 相互の共感 ・ 社会的交流などの見えざる資源がお互いの協調行動を促すことにより社会の効率を高める働きをするという社会制度のことです。鶴岡は、元来このソーシャル ・ キャピタルの豊かな地域なのかもしれません。少なくとも、Net4Uを動かしている原動力は、鶴岡のソーシャル ・ キャピタルとは無縁ではないと考えています。