年頭のごあいさつ
「病気を診ずして人を診よ」
鶴岡地区医師会
会長 三原一郎
新年あけましておめでとうございます。会員の皆様におかれましては、決意を新たに良き新年をお迎えのことと謹んでお慶び申し上げます。昨年4月に鶴岡地区医師会会長に就任し、早、8か月が経とうとしております。医師会長としての重責を感じた半年余でしたが、役員、会員また職員の皆様の温かいご支援とご指導のおかげで、大過なく職務を遂行できたのではないかと思っております。この場をかりて、御礼申し上げます。
さて、昨年末には、政権交代という大きな出来事がありました。国民は、民主党が掲げた選挙公約が絵に描いた餅だとみすかし、民主党政権に落第点をつけた結果だったのでしょう。政権は自民党に移りましたが、喫緊の課題は山積しており、医療を含む社会保障が後退しないよう、今後の政権運営に注目したいと思います。
・昨年度の事業を振り返って
医師会の各種事業の運営は、課題を抱えてはいるものの、概ね順調に運用されていると評価しています。これも一重に、皆様のご尽力、ご協力によるものと感謝申し上げます。医師会本来の役割としての地域医療への貢献に関しては、ここ数年取り組んできた緩和ケア普及のためのプロジェクト(庄内プロジェクト)、地域連携パス、医療情報のIT化、在宅医療連携拠点事業なども順調に推移しています。
庄内プロジェクトは、国の委託事業終了後に南庄内緩和ケア推進協議会を設立し、今年で3年目を迎えますが、研修会、症例検討会、講演会などを継続し、在宅緩和ケアのさらなる普及を目指し、活動しています。脳卒中地域連携パスに関しては、昨年度は維持期を含めたパスデータの解析を行い、集計表第1号を発刊することができました。また、医療マネジメント学会やクリニカルパス学会などにその成果を多数報告させていただきました。新Net4Uの開発は、ここ数年喫緊の課題でしたが、昨年5月、医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャル・ネットワークとして全面改訂し、現在、順調に運用されています。さらに、新Net4Uはちょうかいネットにも参加することで、病院から在宅まで、医療から介護までシームレスな情報共有可能なシステムとなりました。在宅医療連携拠点室「ほたる」は、2年目の事業も受託することができ、全国の手本となる医師会モデルの先進地区として在宅医療を支援するさまざまな活動を行っています。
・医療をとりまく現状
本年度は、保健医療計画を見直す年に当たります。医療計画の重点課題として、従来、4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)、5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療)が記載されていましたが、来年度からはこれに精神科疾患が追加さ、5疾病5事業となります。さらに、在宅医療体制の充実・強化も計画に盛り込まれます。
・精神疾患
精神疾患は、08年の調査で患者数が323万人と癌の152万人の2倍に達し、現行4疾病でも最も多い糖尿病の237万人をも上回っています。とくに、近年は、職場におけるうつ病、高齢化による認知症の増加など、国民に広く関わる疾患となっています。また、精神疾患による死亡は年間1.1万で、さらに、年間3万に上る自殺者の9割が、何らかの精神疾患を患っていた可能性もあり、緊急性も高いといわれています。医療提供の観点では、地域の精神科をはじめとする病院、診療所、訪問看護ステーションなどが、個々の機能に応じた連携を推進することが求められています。
・在宅医療
超高齢社会の進行とともに、年間死亡者数は2025年には、現在の1.5倍に当たる約160万人となり大量死時代を迎えます。また、医療介護の対象患者は、これからの10年間で、現在の450万から750万人へと急増します。一方で、国民の70%は、最期の療養場所として自宅を希望しているにもかかわらず、在宅での看取りは、12%程度に過ぎず、一方病院で亡くなる人が87%という現状があります。医療先進国であるアメリカや福祉先進国のオランダでは、病院、施設、自宅でのそれぞれの看取り数は、ほぼ同じ30−40%であり、日本の終末期医療は偏っていると言わざるを得ません。
このような背景の中、在宅医療の充実とは、在宅看取りを進めることだとも言えます。在宅看取りを進めていくためには、医療、介護のみならず、患者・家族を含めた多面的なアプローチが必要ですが、医師会としても積極的に取り組まなければならない重要課題と認識しています。
・地域包括ケアシステム
高齢化社会においては、地域包括ケアシステムが求められています。地域包括ケアシステムとは、ニーズに応じた住宅が提供されることを基本として、生活上の安全、安心、健康を確保するため、医療、介護、予防のみならず福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常の場で適切に提供できるような仕組みのことです。換言すれば、予防(介護予防)、医療(在宅医療、訪問看護)、介護(生活支援、身体介護、基礎的医療ケア)、生活支援(見守り、配食、買い物、虐待防止、成年後見)、住まい(福祉は住宅に始まり、住宅に終わると言われている)が包括的、一体的に提供される地域のあり方のことです。地域包括ケアシステムは、高齢者が尊厳をもって、その人らしく安心して生きていくことを支えるまちづくりと言ってもいいと思います。行政が主体に進めることになると思いますが、医師会としても積極的に関わっていきたいと考えています。
・おわりに
社会が高齢化し、脳卒中、がん、糖尿病など、治らない、治せない病気が多くを占める今の時代において、医療の目的は病気を治すことから、その人らしい生き方、死に方を支えること、生きがいを支援することへと軸足を移していく必要があると考えています。してあげる医療から求めに応じた医療へ、お仕着せの医療から患者とともにある医療へ、延命ための診断・治療から患者の生き方・死に方を支援する生活モデル重視の病院・地域づくりへ、われわれはシフトしていかなければならない、そんな時代なのだと感じています。「病気を診ずして人を診よ」は、私の出身大学の理念ですが、先達は医療の本質を見抜いていたと、今頃になって実感しているところです。
今年一年の皆様のご健勝とご多幸を心より祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。
「病気を診ずして人を診よ」
鶴岡地区医師会
会長 三原一郎
新年あけましておめでとうございます。会員の皆様におかれましては、決意を新たに良き新年をお迎えのことと謹んでお慶び申し上げます。昨年4月に鶴岡地区医師会会長に就任し、早、8か月が経とうとしております。医師会長としての重責を感じた半年余でしたが、役員、会員また職員の皆様の温かいご支援とご指導のおかげで、大過なく職務を遂行できたのではないかと思っております。この場をかりて、御礼申し上げます。
さて、昨年末には、政権交代という大きな出来事がありました。国民は、民主党が掲げた選挙公約が絵に描いた餅だとみすかし、民主党政権に落第点をつけた結果だったのでしょう。政権は自民党に移りましたが、喫緊の課題は山積しており、医療を含む社会保障が後退しないよう、今後の政権運営に注目したいと思います。
・昨年度の事業を振り返って
医師会の各種事業の運営は、課題を抱えてはいるものの、概ね順調に運用されていると評価しています。これも一重に、皆様のご尽力、ご協力によるものと感謝申し上げます。医師会本来の役割としての地域医療への貢献に関しては、ここ数年取り組んできた緩和ケア普及のためのプロジェクト(庄内プロジェクト)、地域連携パス、医療情報のIT化、在宅医療連携拠点事業なども順調に推移しています。
庄内プロジェクトは、国の委託事業終了後に南庄内緩和ケア推進協議会を設立し、今年で3年目を迎えますが、研修会、症例検討会、講演会などを継続し、在宅緩和ケアのさらなる普及を目指し、活動しています。脳卒中地域連携パスに関しては、昨年度は維持期を含めたパスデータの解析を行い、集計表第1号を発刊することができました。また、医療マネジメント学会やクリニカルパス学会などにその成果を多数報告させていただきました。新Net4Uの開発は、ここ数年喫緊の課題でしたが、昨年5月、医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャル・ネットワークとして全面改訂し、現在、順調に運用されています。さらに、新Net4Uはちょうかいネットにも参加することで、病院から在宅まで、医療から介護までシームレスな情報共有可能なシステムとなりました。在宅医療連携拠点室「ほたる」は、2年目の事業も受託することができ、全国の手本となる医師会モデルの先進地区として在宅医療を支援するさまざまな活動を行っています。
・医療をとりまく現状
本年度は、保健医療計画を見直す年に当たります。医療計画の重点課題として、従来、4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)、5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療)が記載されていましたが、来年度からはこれに精神科疾患が追加さ、5疾病5事業となります。さらに、在宅医療体制の充実・強化も計画に盛り込まれます。
・精神疾患
精神疾患は、08年の調査で患者数が323万人と癌の152万人の2倍に達し、現行4疾病でも最も多い糖尿病の237万人をも上回っています。とくに、近年は、職場におけるうつ病、高齢化による認知症の増加など、国民に広く関わる疾患となっています。また、精神疾患による死亡は年間1.1万で、さらに、年間3万に上る自殺者の9割が、何らかの精神疾患を患っていた可能性もあり、緊急性も高いといわれています。医療提供の観点では、地域の精神科をはじめとする病院、診療所、訪問看護ステーションなどが、個々の機能に応じた連携を推進することが求められています。
・在宅医療
超高齢社会の進行とともに、年間死亡者数は2025年には、現在の1.5倍に当たる約160万人となり大量死時代を迎えます。また、医療介護の対象患者は、これからの10年間で、現在の450万から750万人へと急増します。一方で、国民の70%は、最期の療養場所として自宅を希望しているにもかかわらず、在宅での看取りは、12%程度に過ぎず、一方病院で亡くなる人が87%という現状があります。医療先進国であるアメリカや福祉先進国のオランダでは、病院、施設、自宅でのそれぞれの看取り数は、ほぼ同じ30−40%であり、日本の終末期医療は偏っていると言わざるを得ません。
このような背景の中、在宅医療の充実とは、在宅看取りを進めることだとも言えます。在宅看取りを進めていくためには、医療、介護のみならず、患者・家族を含めた多面的なアプローチが必要ですが、医師会としても積極的に取り組まなければならない重要課題と認識しています。
・地域包括ケアシステム
高齢化社会においては、地域包括ケアシステムが求められています。地域包括ケアシステムとは、ニーズに応じた住宅が提供されることを基本として、生活上の安全、安心、健康を確保するため、医療、介護、予防のみならず福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常の場で適切に提供できるような仕組みのことです。換言すれば、予防(介護予防)、医療(在宅医療、訪問看護)、介護(生活支援、身体介護、基礎的医療ケア)、生活支援(見守り、配食、買い物、虐待防止、成年後見)、住まい(福祉は住宅に始まり、住宅に終わると言われている)が包括的、一体的に提供される地域のあり方のことです。地域包括ケアシステムは、高齢者が尊厳をもって、その人らしく安心して生きていくことを支えるまちづくりと言ってもいいと思います。行政が主体に進めることになると思いますが、医師会としても積極的に関わっていきたいと考えています。
・おわりに
社会が高齢化し、脳卒中、がん、糖尿病など、治らない、治せない病気が多くを占める今の時代において、医療の目的は病気を治すことから、その人らしい生き方、死に方を支えること、生きがいを支援することへと軸足を移していく必要があると考えています。してあげる医療から求めに応じた医療へ、お仕着せの医療から患者とともにある医療へ、延命ための診断・治療から患者の生き方・死に方を支援する生活モデル重視の病院・地域づくりへ、われわれはシフトしていかなければならない、そんな時代なのだと感じています。「病気を診ずして人を診よ」は、私の出身大学の理念ですが、先達は医療の本質を見抜いていたと、今頃になって実感しているところです。
今年一年の皆様のご健勝とご多幸を心より祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。