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第10回:ORCAの課題
ORCAは、正式にリリースされて以来、4年目を迎えようとしている。日医総研のホームページによると、現在、稼動医療機関数は1229(2004年3月現在)だそうである。順調に推移しているとみるべきか、思ったほど普及していないとみるべきか、判断は分かれそうである。
私は、ORCAプロジェクトが、成功するか、失敗に終わるか(一部にしか普及しない)予断を許さない状況にあると考えている。レセコンとしてのORCAには、従来のレセコンに比し多くの優れた点があることは事実である。従来のレセコンの比較して安価であるし、インターネットを利用して、無償で点数改正に対応でき、プログラムを更新することも可能である。また、病名、薬剤名、処置などの診療情報が標準化されており、将来にわたって、それらを二次利用することが可能である。さらに、院内のネットワークを介して、いつも使っているパソコンから利用できるので、受付だけではなく、診察室や薬局からもレセコンの閲覧、入力ができる、などなど優れた点は多数挙げることができる。しかも、開発はわれわれの母体組織である日本医師会なのである。普通に考えれば、普及しないわけはないはずである。しかし、普及に弾みがつかないのはなぜだろうか?
その理由は、サポート業者が育っていないことにつきるのではないか。ORCAは、日医総研が開発し、無償で提供されているレセプトソフトである。無償という意味は、ソフトウエアがインターネット上に公開されていて、それを自由に使えるということであるが、実際の運用に当たっては、ORCAに精通した業者の存在が必要不可欠である。また、もともとレセコンを運用するには、操作法だけではなく診療報酬体系についての知識も必要であり、その運用をサポートする業者には、コンピュータのメンテナンスばかりでなく、レセプト作成に必要な種々の知識も求められる。レセコンサポートが、“素人”が安直に参入できるようなビジネスシーンではなかったという誤算が日医総研にも、業者側にもあったのではないかと推測している。
ORCAビジネスに参入はしたものの、きちんとしたサポートができない、あるいは、仕事の内容が大変な割には、思ったほど導入医療機関が少なく儲けが薄いとして撤退した業者も少なくないと聞く。このような不幸が生じた場合、ORCAは使えないという風評が立つことも、仕方がないことだと思われる。
業者の撤退は、業者側にだけ問題があるわけではない。ORCAは、今でこそかなり安定してきたが、過去にはバージョンアップが頻回で、しかもバージョンアップ時にトラブルが生じることが少なからずあった。バージョンアップしたとたん、起動しなくなったということは、私自身も経験している。業者は少なくともバージョンアップがきちんとできることを検証して、初めて、納入先の診療所のORCAをバージョンアップすることになるのだが、これが結構な手間になっているようである。また、バージョンアップにより、操作法が変わってしまうことも、業者にとって辛いところだとも聞く。開発側には当初は機能アップより、レセプトソフトとしての安定を、まずは目指して欲しかった。しかし、このようなORCA側の問題は、ソフトウエアの改良で、最近ではほとんど解消された感がある。
こうしてORCAは、機能的にもシステムの安定性においても、従来のレセコンに比べて遜色のないソフトに仕上がった。それだけではない。ORCAは単に安価なレセコンに留まらない、医療の向上に寄与する可能性を秘めたプロジェクトなのである。例えば、診療情報を共有して医療連携に応用する、蓄積したデータを解析してEBM的に活用する、国の点数改正などに対抗するデータとして利用する、電子カルテと連携させる、などである。
ORCAが普及することは、われわれ医療者にとっても利点が多いはずである。ORCAプロジェクトを暖かく見守って頂きたいと思う。そして、多くの会員が積極的にORCAに関わっていけば、サポート業者もおのずと育っていくものと、私は確信している。